入院して1週間経った。5月に入ってからまだ自分の足で立っていない。チンポにクダもささったままで機能するのかどうかわからない。すなわち立ってない。
これがおもしろいことに日毎に自覚症状が強くなる。たいしたことをしてしまったなと。自身の身体が弱っているのも非常によくわかるようになる。あれだけいろいろな節制を看護師が告げたのもよくわかる。
そもそもベッドの上にあぐらをかいて備え付けのテーブルでこういう文章を書いてるだけで相当な重労働をしていると感じる。頭がボーっとしてくる。連続30分が限度。
こんなでこの先大丈夫なのかなと不安になる。
それとはまったく逆で、1日3食きちんといただいているのにベッドの上から動くことができないんで、体力はあるような気もする。具体的にいうと夜眠れないとか。夜眠れないわりに平気だなとか。
ずっと家族のつきそいとして病院に泊まったりは多いんだけど、集中治療室は通常家族は別。しみじみと変わったところだよなあと思う。
さいしょのころは、おれ自身のコーフンやベッド上で視認できる範囲も限られていたわけでなにがなんだかわからなかったんだけど、カーテンのとなりは「難物」であることはすぐにわかった。
いつごろから難物がそこにいるのかわかりませんけど、おれが入った当初は装着される医療機器をはずしてまわっては、さらにつけようとする看護師の指を噛んだり大騒ぎしていた。
それが3日にもなると、装着する機材がグーンと増えて、本人が発する言葉は少なくなるけど、その埋め合わせをするかのように医療機器の電子音が鳴り響くようになる。
これが不思議なんだよな。通常、医療機器の電子音は確認を促すために存在するもんだよな。
時間がきました、定量になりました、異常が発生しましたなどなど。それを遠くからでもわかるように大きい音になるのもわかる。ほかの機材とのバッティングにならないためにいろいろな音があるのもわかる。
でも、限度があるだろ? おれの素人考えだと「必要以上」としか思えない。あるいはマナーモードつけろよ。1mとなりで看護師が立ってるなら振動だけでもわかるだろうよ。
また、BOSEのスピーカーでも使っているのか?ってくらい、すげえいい音で大音量だったりもするんだよね。テクノマニアがよろこびそうなくらい。というか、医療機器の電子音をサンプリングしてYMOの「テクノポリス」でも作ることができるんじゃないかと思うくらい。
多分その電子音の「恩恵」にあずかったのは隣で安静にしてるおれだよ。
その方が今朝亡くなったようだよ。ワーオ。
おとなりさんなのに顔もなにもわからない。あれだけ叫んでいたけど最初は性別もわからなかったくらいで。
カーテンがとじられていてなにが起こってるのかよくわからないですがたぶん遺族にどういう感じだったか話してる模様。すすり泣く音も聞こえる。
そんな中、おれは入院して1週間でなかったウンコが出そうだった。手術あと、ベッドの上で朝食の「トマトクリーミー鍋」をほぼ全部吐いて(しかも下のガキがかけつけて号泣しているときに)、腹の中はカラッポにはなっている。
でも、そのあと、1日3食で5日分。魚は当たる可能性を考えて残し気味にしてましたがほぼ完食してましたのに、不思議なほど便意がなかった。別に腹も張ってないし、オナラすら4日目ほどはなかったくらいで。
おれの目論見としてはこのまま自力歩行でトイレにいけるようになるまでねばるか、サイアク、ベッドのかたわらに「おまる」をおいてそこでしたいなと。
ただどうもまだダメみたいでなあ。
「排便ショック」というコトバをきいた。
すっかり治って家に帰ってトイレでふんばりすぎたために心不全が起こって病院に逆戻りする。
そんな話を聞きながら、ためすぎると「コワイ」ってきかされて、下剤を飲むことにしてみた。それが一昨日。1錠のんで様子をみたけど音沙汰とかなかったので昨夜2錠。それでこれまでの最大のレイブパーティがとなりで行われていたんですよ。ナニロックフェスかってえの。
下剤を飲んだことがある方はおわかりと思うんだけど、空振りになるとただ腹がキューと痛むだけなんだよね。昨夜がまさにそれの最たるもので眠れないは、ハラ痛いわで相当なダウン状態。
で、一夜明けてのおとなりさんのしんみりタイムに「それ」がやってきたんですよ。
ただ、この状態のままでナースコールおして「ウンコ出るっす」などといえるはずもなく。なんとか静かに過ごす。
するとどっかいってしまう。そもそも1週間ぶりだからどれがそれなのかよくわからなくなってしまう。
でも、覚悟は決めていたので、しんみりタイムが終わったあたりをみはからってナースコール。
ベッド上での排便は2パターンあって、ひとつはオムツのなかにそのままぶちまけること。もうひとつは「差し込み便器」というものを使う。
今にして思えばぶちまけのほうがよかったのかもしれないと思ったりする。一長一短あるからなんともいえないけど、差し込み便器をセッティングしてもらってたんですよね。
まーこれが出ない。出るわけないよな。こんな体制でトイレをしたことがないし、ベッドの上の排泄は抵抗あるよなあ。いくつになっても。おれが集中治療室を出る間際にはいってきた80歳以上のババア(これまた顔をみてない)も同じようなことをいっていた。そのわりに「悪いわね」といいつつブリブリしてたけど。
と、実は朝から4回チャレンジしてるけどどうにもうまくいかない。でない。コールしては「やっぱりムリでした」と断ってた。これがまたプレッシャーとして上乗せされる。
5回目は不退転の気持ちでのぞんだよ。排便ショックが出てもいい。不整脈が出てもいいって。
大昔、家をリフォームして和式の水洗トイレにしてもらってから、最初にするとき「(自分の便が)あふれないかな?」と心配していた。そんなもんゾウでもなきゃあふれないわと今になっては思うけど、当時は切実だった。くみとりにしてたから自分が1回にどれだけ出してるかわかなく、マンガのそれはけっこう量が多かったし。そしてこれはわりにリアルに切実。どう考えても和式の便器よりはキャパが少ないしオーバーフロウはありえそうに思えた。結局どうだったのかはわからなかったけど。
その後、終わりましたとナースコールする感じ。20代の看護師にかたづけてもらう感じ。しかも、恥ずかしさなのか、消耗してたのか、お尻を洗ってもらってるときにワナワナしてたら、その看護師が異常発生?と先輩を呼んでいろいろと話しをはじめる。もちろん、まだ便器はかたわらにあるままで。臭いを撒き散らしてるままで。
ああ、健康でいよう。また強く強く思った。
看護師にとっては「あたりまえ」のことだし「これが仕事」(と、前記の80代ババアが「悪いわね」ってしきりにあやまっていたときにいっていた)なんだろうけど、たいがいの看護師以外、または、介護士以外には、けっこう「ナイ」ことなんですよね。
そして、本当に本当になるべく「ナイ」ほうがいいなと。
こんなもんはしょうがないとかいつかは通る道とはいえるのだろうけど、全力で避けようと努力するくらいはしないとなあ。
もうひとつのベンの話
心筋梗塞で入院。治療の過程で不整脈が出て電気ショックを4回あてた。その結果、僧帽弁という血を送るための弁が動いてないそうです。それを治すための手術までがとりあえず本丸だそうです。
まだ、先は長い。
そして現在一般床。やっと自力歩行でのトイレの許可がおりました。結局、差し込み便器では一回だけで、あとは明け方にポータブル(おまる)でやっては片付けてもらってました。